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ブラジルのリオデジャネイロが南米初となるオリンピックの開催地に選ばれた 2009 年、イギリスの有力誌『The Economist』は、リオデジャネイロのキリスト像がコルコバードの丘の上からロケットのように飛び立つ場面をイメージした表紙とともに、「離陸するブラジル」(Brazil takes off)と題する特集記事を掲載した。この特集は、当初 BRICsのなかで懐疑的な見方が強かったが、それを覆すような発展を遂げている「新しいブラジル」(the new Brazil)を過小評価すべきではないと論じた。
他の BRICs 諸国と比べブラジルは、中国にない政治の民主主義があり、インドのような宗教 ・ 民族の対立や隣国との紛争がなく、ロシアと異なり輸出が石油や武器ばかりでなく外国人投資家を尊重すると評価した。そして、政府の役割のあり方、教育やインフラの遅れ、治安問題、「自信過剰」(hubris)などの懸念材料はあるが、ブラジルは自らの進路へ向かい“離陸”したと結論づけたのである。
ブラジルが BRICs の一角に挙げられた 2001 年当時、「なぜブラジルが選ばれるのか」という声も多く聞かれた。1980 年代の“失われた 10 年”やハイパー ・ インフレといった負の記憶が根強く、1970 年前後の“ブラジル経済の奇跡”を知らない世代も増え、地理的にも遠い日本ではとくに、このような見方が大半だったといえる。しかし、1941 年にツヴァイク(Stefan Zweig)に『未来の国』と著されたブラジルは、幾重もの紆余曲折を経た後の 21 世紀初め、その“未来”がようやく到来したと評されるまでに変貌を遂げた。そして、新興国の雄としてわれわれの前に台頭したブラジルを、経済をはじめさまざまな分野から総合的に分析し、国家として変容を遂げた「新しいブラジル」としてとらえる研究が海外で発表された。
しかしながら日本ではブラジル研究の層が薄いこともあり、国内外で高まる近年のブラジルへの関心に応えるような研究はごく僅かであった。そこで日本のブラジル研究をリードしてきたアジア経済研究所として、2012年度に「新しいブラジル」と題する研究会を立ち上げ、日本の社会科学系のブラジル専門家に声をかけ、近年のブラジルを総合的に理解することを目的に研究や議論を重ねた。本書はその成果をまとめたものである。
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