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ヘイト・スピーチが日本を騒がせています。「韓国人を殺せ」「朝鮮人は死ね」といった激烈な差別、「日本から出ていけ」といった追放と排除の意思表示―ここにあるのは差別、差別の煽動、敵意であり、他者の存在と人格の否定です。
自分と異なる他者を差別し排除する排外主義は、被害者を傷つけるだけでなく、加害者自らの人格を歪め、この社会を破壊します。自由、平等、人権、個人の尊重といった価値理念を損ない、対話、連帯、協働の精神を社会から奪い去ります。ヘイト・スピーチという言葉は「憎悪言論」と訳されるように、あたかも言論・表現の一つであるかのように見えます。
なるほどヘイト・スピーチのなかには、新聞や雑誌上の活字で表明されるものもあります。インターネット上の書き込みもあります。しかし、ヘイト・スピーチという言葉にとらわれて、言論・表現という側面だけに限ることは、物事の本質を見失うことになりかねません。ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害、旧ユーゴスラヴィアにおける民族浄化、ルワンダにおけるツチ・ジェノサイドなど、歴史的に生起してきた典型的なヘイト・スピーチは、差別、暴力、脅迫、迫害といった文脈で行われました。日本でも関東大震災朝鮮人虐殺は、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「朝鮮人が暴動を起こす」という官製のデマに怯えた民衆が、朝鮮人に対する悪意と罵声を投げつけながら行った虐殺です。
ヘイト・スピーチは単なる言論ではなく、殺人をはじめとする犯罪の予告であり、教唆・煽動であり、ヘイト・クライム(憎悪犯罪)です。暴力行為が伴う場合もあれば、伴わない場合もありますが、いずれにしても国際的には、人種・民族差別、迫害、人道に対する罪の問題として理解されています。
ヘイト・スピーチは単発の差別行為というよりも、歴史的につくられてきた構造的な差別を背景に、強者・マジョリティが弱者・マイノリティに襲いかかる暴力です。その国家と社会において生産されてきた差別の構造を抜きに、ヘイト・スピーチを理解することはできません。
本書はこうした関心から、現在の日本におけるヘイト・スピーチ現象を的確に理解・把握し、これに対する対策を提言する試みです。私たちが生きる日本社会を悪意と暴力に満ちた社会にしないために、ヘイト・スピーチを克服する思想を鍛えるためのガイドブックです。
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