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2010年末にチュニジアで始まった市民による政府への抗議行動を発端とする政治変動(「アラブの春」)は瞬く間にアラブ諸国に波及した。エジプトでは抗議行動の発生からわずか18日でムバーラク政権の退陣に至った。リビアでは政府と反政府勢力の間で戦闘となり、外国軍による軍事介入を招いた。「アラブの春」は、大統領の退陣から政治改革の表明まで、それぞれの国内要因によって異なる展開となったものの、その広がりと迅速な伝播は、アラブ世界に大きな変化をもたらすかにみえた。
「アラブの春」の発生から2年半が経過したが、抗議行動が結実した国は少ない。シリアは先のみえない内戦に発展した。ヨルダンでは政治改革が迷走している。エジプトでは新政権が誕生したが、その後も抗議デモが続いた。他方、湾岸アラブ諸国の多くは比較的平穏だったが、予防策として公表された政治改革の模索、あるいは周辺国の政治変動の影響など、現在も国内外での変化への対応を迫られている。中東地域にはいまだ「アラブの春」の余熱が残っているのである。
「アラブの春」は中東地域にどのような変化をもたらすのだろうか。各国の政治・経済施策、あるいはいくつかの国の政権交代は、今後の地域バランスにどのような影響を及ぼすのだろうか。本書の関心は、「アラブの春」後の中東地域秩序の行方である。とはいえ、上述のように、多くの国に依然として「アラブの春」の余韻が残っている。それは内戦の続くシリアのみならず、新体制の構築で混乱するエジプト、平和的に政権移行が進みつつあるイエメンなども同様である。その一方で、新しい地域秩序の形成を見据えたような動きも始まった。トルコ、イランのアラブ諸国への接近、いくつかの国による新たな地域政策の模索などである。そうした動きは始まったばかりであり、その均衡点が明らかになるのはしばらく先のことだろう。しかしながら、「アラブの春」をふまえた各国の政治経済情勢と対外政策の模索を理解することは、今後の地域秩序の特性を検討する基点となると考える。そこで、本書では、「アラブの春」によって中東諸国の政治・経済運営および対外政策がどう変化したのかを検討する。それによって、「アラブの春」後の中東地域秩序の行方を見通す視点を得ることをめざす。
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