すぐに役立つ開発指標のはなし

アジアを見る眼

すぐに役立つ開発指標のはなし

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出版社
アジア経済研究所
著者名
野上裕生
価格
1,320円(本体1,200円+税)
発行年月
2013年5月
判型
新書
ISBN
9784258051168

開発指標とは何か
開発途上国の実情を分析するうえで統計資料を利用しないですませることはできない。統計資料の利用はただ単に経済分析だけでなく、社会や政治の領域にもおよんでいる。また寿命や死亡、出生といった人生の重大事項は、人口統計を子細に眺めればかなりのことが理解できる。統計指標一般とは区別して、開発研究と深い縁のある統計指標を「開発指標」(Development Indicators)と呼ぶことにしよう。
「計測」と「要約」のための開発指標
開発指標の任務は二つある。第一は、重要な概念を客観的なもの、計測可能なものにすることである。開発研究の分野には「生活の質」「エンパワーメント」「社会関係資本(ソーシャルキャピタル)」「貧困」「不平等」「持続可能性」という概念がよく出てくる。しかし、これらの概念を現実の政策に反映させるのは非常に難しい。まず「エンパワーメント」「持続可能性」「生産性」という概念が特定地域や集団に現実にあるわけではない。社会を「ソーシャルキャピタル」「持続可能性」という視点でみたら、どのように違ってみえるか、ということから提案されたものが開発研究の概念なので、「もし◯◯が社会に存在するとすれば、どのような大きさになるか」という具合で、その質や量を評価する方法は特別に工夫しなければならない。
人口や土地面積のように対象が物理的な「もの」として存在し、大きさの評価が比較的容易なものとは違って、開発研究で重要な指標は何らかのルールにしたがって作成されている。農産物の生産額にしても、それが「生活の豊かさ」や「国の生産力」を示すためには、その生産額を一人あたりの値にし、そこから得られる純収入や実際に消費に向けられる量を評価しなくてはならない。また、指標を作成することで「概念」の意味がより正確になることも多い。たとえば「貧困」の指標として、かつては支出に占める食費の割合(エンゲル係数)やカロリー摂取量などが利用されたことがあった。しかし、生活費に占める衣服や暖房、住居費用は日本国憲法第二十五条の「健康で文化的な最低限度の生活」には欠かせないのではないか。カロリーのないお茶やコーヒーも貧困層の食生活にとって重要ではないのだろうか。このような疑問から「貧困指標」も進化していったのである。
開発指標のもうひとつの任務は、情報の要約ということである。「景気回復」や「環境の質」、あるいは「生活の質」といっても、それに関わる要因は非常に多い。景気判断に関わるものは生産や販売・消費だけでなく、所得や雇用なども含まれる。そこで生産、消費、販売、雇用、所得といった経済の全分野を網羅し、それらの指標のもつ情報を偏りなく要約して統計指標の意味を明確に表現できる要約の指標(景気動向指数)が必要になってくる。このようにして、開発指標は「要約」という任務も担う必要があるわけである。

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