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ブレーズ・パスカル(1623-62)は,数学,化学,物理学の分野で,幼少時から頭角を現し,全ヨーロッパで称賛を博していた。彼は31歳のある夜,イエスを十字架につけたと痛感し,決定的な回心を経験する。以来,彼は現世を脱却し,神ならぬ一切を忘却して生きることを決意した。39歳で生涯を閉じたが,膨大な覚書が残されていた。それらは断片的な手控えで脈絡を欠いていたが,明瞭で完成に近いと思われる断片を選別し『パンセ』が刊行された。
パスカルは真理を探究するために論理的推論,すなわち哲学的方法を駆使した。そして理性の最後の働きは,理性を超えた無数の事象である「超自然的真理」の存在を認識し,それに服すべきことにあると喝破する。理性万能主義的哲学は「超自然」に対して無力である。彼は「超理性的真理」を受け入れ,それに理性が服従することにより,哲学を超出して「宗教哲学」の領域を展開した。
パスカルはキリスト教の真実性を示すため,人間の複雑な現実に対する精密な観察と分析に基づく人間学研究から出発して,哲学者の諸説や教説などを吟味した結果,キリスト教の教えに唯一の合理性があることを証明した。「人間の偉大と悲惨」という人間を覆う背反性を,キリスト教の創造論と原罪説が見事に説明しているのを発見する。
本書は長年にわたる徹底的な『パンセ』の哲学的解読により,科学者パスカルの精神の軌跡を多面的に明らかにして,パスカルの実存に迫る貴重な研究成果である。
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