引き潮を待って

引き潮を待って

出版社よりお取り寄せ(通常3日~20日で出荷)
※20日以内での商品確保が難しい場合、キャンセルさせて頂きます

出版社
書肆侃侃房
著者名
吉本洋子(詩人)
価格
2,200円(本体2,000円+税)
発行年月
2011年10月
判型
A5
ISBN
9784863850620

引き潮を待って







こんなところにまで潮は満ちていました      

     

あなたの手に残された満潮のしるし

何処まで遊びに出かけたのですか



あなたと海沿いの町に生まれて

重なり合って辿り着いた寝台の傍では

今日も潮鳴りが聞こえています



細い管で潮鳴りを鎮める神事は

濁った音を立てながら

あちらこちらで催されます

腕自慢から見習いまで

誰に当たるのかはその日の運試し

今日も良い一日でありますように



排尿には問題はありません

なかなか引きませんね



呼応するように

潮が指の先まで満ちてくる

こんなにもたっぷりと薄い皮膚のすぐ下に

ずぶずぶっと私を埋没させる水脈があるなんて



呪術師を真似て両手を差し込み

ゆっくりと潮を押し戻す

潮は抗いながら肘関節までは退いてみせるがそこから先は

頑な意志を持って居座っているテロリストのようだ



リンパの流れに沿ってマッサージをしてください

ん? 銀波の流れに乗ってマッサージをするわけ

人の身体の六割は水だというから

このままだとあなたの中で溺れそうです



長期戦になりますから



幾度と無く波に押し戻され取り残されて

次の波を待っている間にも潮はあなたから湧いてくる              

   

先夜差し込まれた細い針の穴から

漏れてくる



病室の二十五時此処から先は

全てのものが別の成分にでも変化するのでしょうか

あなたから零れおちた潮が迷い船を招き入れる



だからあなたは

潮を汲みあげる柄杓を片手に

引き潮を待ちながら潮路を歩いている

内気な船幽霊です

お気に入りカテゴリ

よく利用するジャンルを設定できます。

≫ 設定

カテゴリ

「+」ボタンからジャンル(検索条件)を絞って検索してください。
表示の並び替えができます。

page top