森 達也
今日の日付は(2012年)2月6日。公開まで1カ月を切った。つい先日2回目の試写が終わり、作品についての評価や感想が、現段階ではネットなどで、少しずつ目につき始めている。
賛否両論(安岡の言葉を借りれば罵倒と称賛)は想定していたが、ネットの属性も相まって、今のところは否定や罵倒のほうが圧倒的に多い。とくに掲示板的なサイトには、引用をはばかりたくなるほどの悪罵がひしめき合っている。(略)
感じていることはある。訴えたいこともある。この書籍ではその思いを、できるかぎり文字化した。でもすべてを言い足りてはいない。だから映像がある。互いに補完し合っている。
撮る理由は観てもらうためだ。一人でも多くの人に。それに尽きる。それ以上は言う必要はない。できれば称賛してほしいけれど、でも最初から最後まで観てもらえるのなら、激しい罵声を浴びてもかまわない。本気でそう思う。(略)
(「あとがき」より)
綿井健陽
東日本大震災から1年を前に刊行した『311を撮る』は、映画『311』の共同監督である森達也・綿井健陽・松林要樹・安岡卓治の4人が、それぞれ一つの章を担当して執筆した記録と軌跡である。
映画『311』は4人の撮影した映像がぐるぐる混在しつつ、一つの物語になっている。
一方、書籍『311を撮る』は一つのバトンを持って、4人それぞれが決められた区間を走るようなリレースタイルだ。
それがどんなバトンなのかは、読者の皆さんが読み終わったゴール地点で見えてくるだろう。
あるいは、そのバトンは、読者の皆さんに手渡されて、またエンドレスで走り出すのかもしれない。
この本はそんな“バトンリレー・ドキュメント”だ。
松林要樹
映画『311』の取材から戻った翌日から南相馬市に向かった。何か現場で置き忘れたものがあると思ったからだ。その南相馬で生活しながら一人で撮影した作品、『相馬看花―第1部 奪われた土地の記憶』も2012年5月に劇場公開される。映画を作る者にとって、二つの作品が公開されることは、とても恵まれたことだ。しかし、置き忘れたものは、まだ見つからない。撮ってしまった「後ろめたさ」の背後に隠れているのかも知れない。それを見つけるまで、私はこれからもずっと撮り続けていくだろう。
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