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河南省の板橋店で小さな宿屋を営む女将の三娘子は客に焼餅を食べさせ驢馬に変える妖術を使っていた。それを知った旅人が女将を騙し驢馬に変えて酷使するという唐代の怪異譚「板橋三娘子」について,その原話から成立の背景,伝播と変遷の実態を,広範な資料を渉猟し総合的に考察した画期的な業績である。
物語の原話をヨーロッパから西アジア,インドに求め,インドの古代説話にその源を見出す。それは西に伝わって『アラビアン・ナイト』へと流れ込み,東ではソグド商人の東西貿易を介して中国にもたらされた。
原話の中国への伝来と翻案による怪異譚としての成立の背景を,関連資料の収集,舞台となった土地の歴史,物語と当時の風俗との関わり,人形を用いる幻術の特異性,さらに小説としての完成度など多面的に考察するとともに,中国の変身術が古代の自然観にもとづく「気」一元論に依拠することを明らかにする。
わが国では「三娘子」がいかに受容され,翻案や類話が生み出されたかをはじめ,近世には動物から人への変身譚が顕著になるなど,中国の影響を受けつつも独自の展開が見られたことを明らかにする。
インド・中近東・中国から日本に伝わり多くの説話,小説,戯曲を生んだこの作品に対する本書の比較文学的アプローチは多くの読者にとって刺激となろう。
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