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講談社文芸文庫スタンダード005(講談社文芸文庫スタンダードは、時代の原基としての存在感をたたえ、今なお輝きを放つ作品を精選した新装版です。)
日本と中国との間には断崖がそびえ、深淵が横わっている。その崖と淵は、どんな器用な政治家でも、埋められないし、跳び越せもしない。そこには新しい鉄の橋のための、必死の架設作業が必要だった。頽れる堤と頽れる堤のあいだに、何度、いいかげんな橋を渡しても、無駄であった。贋の橋や仮りの橋は、押し流されるより先に、ひとりでに腐り落ちた。峯たちには、架けねばならぬ新しい橋の姿が、おぼろげながら想像できた。
作家・峯三郎を視点とし戦争直後の中国文化研究会に焦点をあて、群像劇にとどまらず……拳銃の暴発、青酸カリ混入、といった事件の大きな波に登場人物たちが飲み込まれていく姿を描く。憧れの象徴である中国大陸の文化と歴史に対する、さまざまな立場からの考証が作品の底に流れる戦後文学の記念碑的傑作であり、著者の代表作。
<中国文化研究会のメンバー>
●軍地先生――頭のハチ割れそうな難しい顔つきしているけれど、みんなをギューギューいじめっころがす。
●新聞社の西さん――気の弱そうなやさ男だけど、可哀そうなほど正直なひと。
●失業中の中井さん――三亀松の声色もへたなくせに、いつまでも「湯島天神お蔦涙の別れ」を止めようとしなかった。
●梅村先生――エンサイクロペジアって悪口言うけど、何を聴いても「アッそれは」って答えられるから、たいしたもんだわ。……そして作家の峯三郎などなど。
彼らと情人蜜枝、桃代が織り成す戦後文学の記念碑的作品
※本書は、筑摩書房『武田泰淳全集』第4巻(1971年8月刊)を底本として、講談社文芸文庫版(1989年3月刊行)を適宜参照し多少ふりがなを加えました。
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