全56篇のラテン語説教集
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神学教授の主要任務は,聖書講解と討論の主宰,ラテン語説教を行うことであり,本書はそのための草稿である。
説教の主題は多岐にわたり,なかでも存在と無,生と死,善と悪などが扱われ,それらを特有の弁証法を駆使して,大胆な比喩と言葉の豊かさによって思惟の底知れぬ深みへと導くエックハルトの手腕は驚くべきものである。
全篇をつうじて主張して止まないのは,神と魂との密接な関係である。いかなる貪欲も知らない完全な愛によって,われわれは自我性を脱却して否応なく神のうちに移される。その時われわれは恩寵によって,神の独り子キリストにいささかも劣らない独り子たちになるという。エックハルトはそのような人を義人ないし神的人間と呼んで,繰り返しそのような境地を目指して生きることを求めている。キリストとわれわれの間には範型と似像として超えがたい区別がある。キリストは本質的に神の子であり,われわれは神の恩寵によって神の子になる。これは「神人合一」の神秘を説いたもので,他には見られない直裁にして易しく説かれている。聖書の言葉に密着し,それらを自在に解釈しながら,彼特有の哲学を語り尽くした「聖書の哲学」と呼ぶに応しいものである。
これらラテン語説教のうちには,エックハルト思想の根本的モチーフ「霊魂における神の(子)の誕生」という用語が,唯一ラテン語著作のうちで見出され,ラテン語説教こそ彼の思想の最終的形態を表していると言えよう。
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