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ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの評伝では、著者の立場により、評価が両極端であることが多い。ナチの同調者だとして道義的に糾弾されたかと思えば、ナチ政権から迫害者を救済し体制に抵抗した人物として称賛されたりもする。しかし、どちらの立場であろうとも共通するのは、彼がこれまでの指揮者の中でもっとも偉大な人物のひとりだったということだ。本書は、フルトヴェングラーにまつわる風説を事実と照らし合わせ、「神話」の背後にある真の人物像を提示する。膨大な資料、同時代の証言者とのインタビューにより、旧来の誤りを訂正し、新たな知見ももたらす。若き日のミュンヘン時代、音楽学者ハインリヒ・シェンカーとの関係、ザルツブルクに「アンチ・バイロイト」を樹立しようとした試みがヒトラーにより阻止されたこと、そして私生活での女性関係と非嫡出子たちとの交流など、これまでの評伝ではその詳細が不明だった事柄にも言及する。本書はひとりの音楽家の評伝であるとともに、ドイツの四つの時代の政治体制そのものを描く近現代史でもある。
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