取り寄せ不可
物質の磁性の起源は電子系の量子的多体効果にあり、その記述は今日でも決して平易ではない。このため、磁性理論は一般に、極端に簡素化された模型の下で数学を駆使した抽象論あるいは定性的議論になることが多く、現実の物質、特に実用材料の磁気特性の議論にまで踏み込むことは少なかった。一方、このような多体問題とは異なるアプローチとして、密度汎関数理論の進展と計算機の発達の下で、1電子状態から実際の物質の磁気特性を定量レベルで評価する技術(第一原理計算とよばれている)が長足の発展をなしてきた背景がある。このアプローチが磁性体の基底状態に関して一定の成功を収めてきたことは衆目の一致するところであるが、前述のような簡素な模型を用いて築き上げられてきた磁性理論との折り合いをどうつければいいかはそれほど明らかではなく、この点に関してわかりやすく書かれた書物はあまり見当たらない。実際、筆者もこれら二つのアプローチが示す磁性の風景にギャップを感じることがあり、混乱する学生が多いことも事実である。
そこで、電子論という共通の視点からこれら二つのアプローチが指し示す磁性を、それぞれの特徴を損なうことなく同じ土俵で論じることができれば、学生や初学者にとって今日的な意味での磁性物理学のいい見取り図になるのではないか、と考えた。
本書の前半では、遍歴電子系の簡単な模型から物質の磁性や磁気構造、特に交換相互作用が電子論的立場からどのように理解されるかについて概説し、後半で、有限温度におけるスピンの揺らぎの扱いや磁気異方性の起源などについて説明した。
(序文より一部抜粋)
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