家庭環境は中国の文化,学校教育はフランスの文化という異なる二つの世界の狭間で,絶えず「誰かの他者」であると感じる居心地の悪さのなかで,著者は中国文化を継承しつつもそれに囚われず,ヨーロッパ的理性の批判的分析を活用することにより,本書を構想した。
特定のイデオロギーやオリエンタリズムに陥ることなく,歴史における様々な可能性に目配りしながら,なぜある特定の思想的選択がなされたかを明らかにし,さらに中国思想に固有の問題系を普遍的位相で展開する独自な方法によって他に類を見ない成果を生み出した。
著者はテクストの緻密な読解と最先端の研究成果を咀嚼し,諸子の思想や儒・道・仏の三教が対抗しあいながらも,互いの思想を糧として自らの思想を深めてゆくダイナミックな過程を鮮やかに描き出す。また思想の違いについても,道や理といった概念の解釈だけではなく,水・鏡・秤などの喩えによって平易に説明するとともに,多くのテクストを引用して作者自身に語らせることで,読者が自ら判断を下せるように配慮した。
学生や研究者だけでなく,わたしたちが多元的な世界に生きていることに気づいているすべての教養人のための入門書として書かれた本書は,フランスの碑文・文芸アカデミーや倫理学・政治学アカデミーの賞を受け,6か国語に翻訳されてヨーロッパでは標準書となっている。わが国でも将来にわたり基本書として迎えられよう。
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