序文より抜粋)
皆さんは、すぐ前のことを思い出せなくなったり、これまで出来ていたことができなくなったりしたご自分をイメージできますか?とても不安で、怖いことだと思います。「自分はどうなってしまうの」という思いに駆られて周りに当たり散らしたり、ひどく落ちこんでしまったりすることでしょう。
(中略)さらに最近増えつつある「認認介護」つまり介護者である連れ合いも認知症というケースでは、ご夫婦の生活基盤が危険にさらされます。頼みの介護保険制度も、こと在宅の認知症高齢者には、不十分な制度と言わざるを得ません。このように認知症の人をケアする介護者のご負担は筆舌に尽くしがたいものがあります。
これまで認知症の人へのケアの基本は、環境整備や対応の仕方にあると言われてきました。ところが多くの場合、こうした事柄は「優しさをもって」「相手の立場に立って」「個別性を重んじて」などと理念として語られる傾向が強かったように思われます。そこでややもすると、実際に何をどうすればいいのかという具体的な方法が示されることが少なかったかもしれません。
このような現状を踏まえて、認知症ケアの場で経験しがちな「これは困った」「キレそうだ」という場面を選び出しました。それに当っては、家族介護者、さまざまな介護職、そして認知症専門病院のスタッフという3つの異なる立場の方々との話し合いを重ねました。その上で、それぞれの実体験をもとに現実に役立つ具体的な対応方法を皆で練り直しました。そして煮詰めたご経験や案をわかりやすい文章にまとめてみました。このような製作過程を反映して、本書は3部構成になっています。つまり在宅の認知症の人を想定した家族介護者と介護スタッフによるA章、また介護スタッフの悩みのB章、さらに入院・入所の人を想定した病院スタッフによるC章に分かれます。AとB章はQ&A形式です。
認知症の方、介護されるご家族はその個性も生活環境もさまざまに異なります。そこでQ&A形式の章では、1問に1答ではなく、できるだけ多くの回答を用意するように努めました。こうして出来上がった回答は、いずれも決して机上の空論ではない、苦労の末に得られた家族介護者の知恵の結晶です。
また日々の介護においては、身体障害への対応や救急の事態など医療的な問題も起こりえます。そこで医療者やリハビリ・作業療法の専門家によるすぐに役立つ工夫やこつの記述もお願いしました。
このようにして出来上がった本書が認知症介護にご苦労されている方々にとって、少しでもお役に立てればと執筆者一同が願っています。
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