笑いを科学する

笑いを科学する

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出版社
新曜社
著者名
木村洋二
価格
3,080円(本体2,800円+税)
発行年月
2010年1月
判型
A5
ISBN
9784788511262

◆はじめに ヒトはなぜ笑うのか          木村洋二









 ヒトはなぜ笑うのか



 もし宇宙人がやってきて人間を観察したとすれば,何よりも笑いに注目するにちがいない。ときどき大きな口をあけて,無意味な音を出しながら呼気を反復するヒト特有の奇妙な運動の意味はいったい何か? と。しかし,当の人間たちは,まじめな人ほど笑いなどはまじめな研究に値しないと考えてきたフシがある。ヒトはよく,馬鹿げたことを見たり聞いたりした時に笑う。この素朴な日常体験から,笑いは意味のない,「つまらない」ものである,という憶説が生まれ,笑い研究の「盲点」をつくった,と考えられる。笑いが人類に特有の現象であるからには,笑いは人間科学によって真剣に科学されなければならない。



 笑う生き物はヒトだけである。ウマやネコは笑わない。しかし,500万年前に人類と進化の道を別れた高等類人猿(オランウータン,ゴリラ,チンパンジー,ボノボ)は,足の裏と脇の下をくすぐるとよろこぶことが報告されている)。つまり,おそらく原初的であろうが,笑いの回路がすでに発生しかけている,と考えられる。



 この事実は,人類進化の謎を解く鍵が笑いのなかに隠されていることを暗示する。アリストテレスをはじめ,古来から多くのまじめな思想家が笑いの謎にとり組んできた。しかし,ヒトがなぜ笑うのか,そのメカニズムはまだ解明されていない。100年ほど前に『笑い』(岩波文庫)という粋な本を書いた哲学者ベルグソンも,「人類の知性に対するコシャクな挑戦」と言って尻尾を巻いたほどである。



 笑いは,陰になり日向になり,精神のすべてのモードに連れ添うように現れる。このため,笑いとは何か,という問いは,論者の人生観や生活姿勢を反映する鏡となる。いつも優越劣等の軸で比較を生きている人は,笑いは「優越の表現」である(ホッブス)と言い,他人に笑われることを気にして生きる人は,「剥奪」であり「差別」であると呟く(ルソー)。まじめ一筋に生きている人は,「笑いはけしからん」と唸り(たぶん,カルヴァンなど),よく笑う人は,「笑いは救いだ,福音だ」ともちあげる(エラスムスやラブレー)。一貫した意味を求める人は,「意味の不一致」が笑いの原因(ショーペンハウエルなど)と主張する。ちなみに,「笑いは突然無に帰した予期」である,と喝破したのはカントである。その洞察力に脱帽するばかりである。







 あふれる無の余剰



 日本最古の神話『古事記』によれば,スサノオの乱暴に怒って岩穴に隠れた太陽神アマテラスを岩穴から引き出して,暗闇に閉ざされた世界に再び太陽の光りを取り戻したのは,ひとりの勇敢な女神アメノウズメノミコトの裸踊

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