不都合な旅

不都合な旅

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出版社
書肆侃侃房
著者名
山本まこと
価格
2,200円(本体2,000円+税)
発行年月
2009年10月
判型
B6
ISBN
9784863850125

不都合な旅



おぼつかない水の母

海の月たちと呼び交わし

有罪性の頭頂部のあたりは夕映えて

空虚がうごく

うごいていきます

するすると眩暈のようならせんを解いて



そこかしこ

いまはもういないひとの指紋が油のように熟れ

何をしても

何をされても不思議じゃない時間

透明な毒を飲んで破れているのが路上の喩なら

ここにいてはいけない

だから意味よりも深い不安を閉じて旅に出るのだ

たぶんみずからは終われない不都合な旅

見えない壁は舌で触って



死ぬ前に姿を消した猫のマーヤは

何を拒んで

一体どんな死にめぐり逢えたことだろう

復讐だとか報復だとか

吊るされたような人間の感情なんか知らないままに

日々の許しからさえ遠ざかり・・・



壊れるためにあったものは壊れるしかなく

最初からなかったもののあるはずもなく

未盗掘の王墓の沈黙は何を待っているのか

恐ろしいまでに何もしないで?



忘れられてなお消えぬフルートの嘆息を風に預けて

もうここにはいられないと

けっしてみずからは終われない乱暴な旅に出るのだ

古びた鏡の皮をまとった欲望の

その方舟をそっと押し出すように

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