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倫理学は「善し悪しの基準」を誰もが納得できる原理として表現することである。自分だけでなく他の人が「納得できた」という客観性はいかにして可能か。言語や数理・論理が,自分の自覚と他の人の自覚を結びつける「誰もが納得できる」学問基盤として十分でないなら,倫理学の基礎はどこにあるのか。
フッサールは「各自の自覚や自己の中にある分からなさ」を学問の出発点とし,倫理学は無意識から自覚がどう生成してくるかを問わねば学問的厳密さを確保できないとして「無意識の現象学」を構想した。
本書は「発生的倫理学」の観点から無意識の身体性の形成を軸に,いまだ自他の自覚と人に生かされることが自覚できない倫理以前の段階と,自他の自覚が成立し,善悪の基準を求めて生きる倫理の段階,「生きる動機」が自覚され自我中心性から解放された「無私性」とうい倫理以後の段階を構想,倫理以前と以後のあいだに「人を生かしている」という事態を位置づけることによって,現代倫理の主流である禁止の倫理を,隠れて働く「生きる動機」の自覚を通して生かされていることが自覚できる「人を生かす倫理」に統合した。
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