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本書は、モーザーの戸田方程式研究を祖形とする直交多項式論に基づく可積分系の研究、とりわけ、可積分系のラックス表示、タウ関数解、さらには、可積分な離散化について統一的な視点から論じる。直交多項式は近似理論を通じて数値計算法の数学的基礎となっており、直交多項式を用いた可積分系の記述は、同時に、可積分系の機能数理の解明に直結する。本書で議論の対象とする可積分系は、この方面の中心に位置する有限、半無限の戸田方程式、および、ロトカ・ボルテラ方程式に限定する。
まず、2章では、サイムスの発見の元となったモーザーによる有限非周期戸田方程式の研究を概観する。モーザーの論文は様々な示唆に富むもので、その後のKP方程式階層、戸田方程式階層の研究の先駆けともみることができる。2重括弧のラックス表示をもつ可積分な勾配系研究の出発点でもある。
3章では、本書の数学的基礎として、直交多項式とその連続時間可積分系との関係についてまとめる。
4章では、直交多項式論に基づいてルティスハウザーのqdアルゴリズム(離散時間戸田方程式)を導出し、その性質と応用について様々な角度から論じる。さらには、同様な方法で離散時間ロトカ・ボルテラ(dLV)方程式を導く。その結果、差分ステップサイズを任意の大きさ選ぶことのできるという著しい性質をもった離散力学系が自然に現れる。
5章では、dLV方程式によって行列の特異値が数値安定に計算できることが示される。これはqdアルゴリズムにない大きな利点である。さらに、数値安定性を壊すことなく原点シフトを導入することができ、その結果、3次収束性をもつ高精度・高速な新しい特異値計算法「mdLVsアルゴリズム」が誕生する.現代の標準解法である原点シフトつきQR アルゴリズムと比べて、より高精度より高速なアルゴリズムであり、ルティスハウザーの夢が50年の歳月を経て、ようやくここに実現したといえる。
躍進は特異値計算に留まらない。6章では、新たな可積分系dLV型変換の導入により、高精度な特異ベクトル計算法が定式化される。この結果、3種類のdLV型漸化式を駆使した、新しい特異値分解法「I-SVDアルゴリズム」が実現される。
QR アルゴリズムに基づく現代の標準ルーチンと比べて、特異値はかなり高精度、特異ベクトルの精度はほぼ同等、計算時間で圧倒的に高速である。
本書は、可積分系と直交多項式を理論的支柱とした、数理としての面白さだけでなく、シンプルで力強く、役に立つから重要であるという新しい研究領域「可積分系の機能数理」誕生の報告である。
(第1章より抜粋)
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