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歴史の周縁者たちを〈文化の創造者〉として語る
〈シャルラタン〉とは、近代前夜のフランスで、客寄せ芸人たちを引き連れ、祝祭や大市などを格好の舞台として、巧みな口上よろしく生半可な医術を営み、怪しげな薬を売りつけてはいずかたともなく去っていった周縁者たちのことである。
一言では決して括れない存在だが、あえて具体化すれば「いかさま師」「もぐり医者」「香具師」などの職種をさす。彼らは長らく「負」の存在として、〈正統〉を汚す異端者として、歴史の「瑣事」として葬られてきた。しかし実は、彼らなくしてヨーロッパ近代文化はありえなかった。それが本書の主題である。
〈正統医学〉は彼らをやっきになって排除することで自らを差異化し、〈近代医学〉たりえた。彼らの施術と口上は庶民に快癒の夢を見せ、パフォーマンスは古典演劇やサーカスの源流となり、ユーモアと饒舌の口上は〈シャルラタン文学〉すら生みだす。
つまり彼ら流浪者たちこそ、その古代・中世的ふるまいによって近代の制度と文化をたちあげた存在であった。さらには、〈正統〉と〈異形〉の、〈日常〉と〈非日常〉の確として見える秩序を転倒させるトリックスターでもあったのである。本書は世界で初めてこの周縁者たちに光を当てた、他に類のない、民族歴史学的文化史である。
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