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●内容
癌の画期的な治療法といわれる“シグナル”療法と“遺伝子”療法を一冊の本にまとめた。専門家ばかりではなく一般の読者にも理解できるよう、癌研究や癌治療の「最先端」をわかりやすく紹介している。癌は、正常な生命活動を営む際の、種々の“シグナル(情報)”タンパク質に変異が起こることによって発生する。本来、細胞の正常な増殖を“スイッチ=オン(点灯)” あるいは「スイッチ=オフ(消灯)」しているシグナルタンパク質は、時にその変異によってスイッチ機能が狂って「点灯したまま」になることがある。これが癌の原因である。本書では、狂ったスイッチを修復して癌を治す種々の治療法を、著者自身の30年近い研究を含め、また“癌と闘う”日本をはじめ世界の戦士(研究者)たちの群像を交えて詳しく紹介している。
●2つの癌との闘い―序にかえて
この「癌」に関する単行本の原稿を本格的に書き始めたのは、確か2年前の「クリスマス・正月休暇」であったと記憶している。私が少年時代から尊敬していた米国のノーベル賞作家、名作『大地』を南京の家で書いて、一躍有名人となったパール・バック女史(1892-1973)に関する英文伝記の邦訳『パール・バック伝:この大地から差別をなくすために』(上下2巻、今秋出版)をようやく脱稿した時期だった。女性差別や人種差別を含むあらゆる「差別」は、われわれ人類社会に巣くう治療し難い悪性の「癌」である。その病原体は、Muchiras bias (「無知」に由来する「偏見」) という 学名 で知られ、その撲滅には、「人類皆平等」という根本精神の普及が絶対に必須である。彼女の一生は、この「社会癌」との闘いだった。そして、最後に肺癌で死んだ。
それから2年後に、人体に巣くう「癌」の病原体(あるいは原因)が、分子レベルで解明され始め、新たな「癌との闘い」が開始された。癌ウイルス中に存在する「発癌遺伝子」群は、実は種々のシグナルタンパク質を生産する「正常な遺伝子」の突然変異体に過ぎないことが判明したからだ。まもなく「抗癌遺伝子」群も発見され、それがやはり、シグナル伝達(特に細胞周期)制御分子を生産する遺伝子であり、その一部欠損が発癌に繋がることも明らかになった。煎じつめれば、癌はシグナル伝達系の「狂い」に由来する。今年のノーベル医学生理学賞の対象になった「細胞周期の制御」と「癌」との関連は、そんなところにある。
当然、癌細胞の「狂ったシグナル」を是正すべき新しいタイプの治療法(いわゆる「シグナル」療法)に有効な制癌剤の開発と、遺伝子療法の応用が、今世紀の癌の治療研究の主要な課題となりつつある。このような画期的な時代の到来に備えて、この分野がいかに発展してきたか、その過去の歴史、現在の先端研究、さらに近い将来への展望を、若い世代や素人にもある程度理解できるような形で、なるべくやさしく面白く書いたのがこの大衆版である。だから広い読者層に、楽しく読んでもらえることを、私は期待している。
丸田 浩
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