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「伊勢」は、時世が藤原北家の権力確立に流動している中で没落して行く貴族の一人の男が、誇高く男の純情を歌った愛の歌物語である。地域的にも対人的にも彼は多面的行動的である。情(こころ)は繊細で悲哀にみちていても、待ち耐え忍ぶ女の想(おもい)とは異質である。又彼は造形された人物でなく実在のきらめく歌人である。が、顔や肉体や生活を持たない。虚実の間に形像から開放され抽象されている。「伊勢」が愛好されるのはこの辺に秘密があるようである。
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