中世玄界灘地域の朝鮮通交

中世玄界灘地域の朝鮮通交

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出版社
九州大学出版会
著者名
松尾弘毅
価格
8,580円(本体7,800円+税)
発行年月
2023年9月
判型
A5
ISBN
9784798503486

中世日朝関係は、多数の日本人通交者が朝鮮と交易を展開したという多元性が特徴とされてきた。『朝鮮王朝実録』や『海東諸国紀』などの朝鮮側の史料には、日本の史料では確認できない様々な階層の通交者が来朝したと記されている。しかし、「深処」と称される対馬以外の地域から来る日本人通交者の大半は、15世紀より既に対馬や博多の通交勢力が派遣していた偽使であることが解明された。こうした研究成果により、日朝通交における日本人通交者の多元性は、ともすれば偽使派遣勢力が作り出した虚構に基づく幻想に過ぎないと捉えられてきた。



しかし、深処には偽使が横行し始めたとされる15世紀中期においても、独自に朝鮮との関係を進展させて使者を派遣していた通交者も存在する。従って、当時の通交状況を偽使のみに集約して考えることは、実態にそぐわない。さらに日朝通交は、使者のみならず、興利倭人や漁民といった、実際に朝鮮に来朝して経済活動に従事する零細な海民によっても支えられていた。こうした関心に基づき、本書では中世日朝通交の特徴とされる地域の広域性・階層の重層性・性格の多様性について、通交権と名義の視点から分析を加え、その実態を明らかにした。



第一部では、個々の地理的特性に基づいて朝鮮と通交関係を構築した壱岐・松浦・五島各地方の在地勢力について通交状況を洗い出し、偽使も含めた通交実態の解明を行った。これにより、歳遣船定約に基づいて派遣された偽使の名義には実在する在地勢力が反映されている点、さらに朝鮮が通交権を給するに当たって、過去の通交実績と在地における勢力状況を判断材料としており、偽使派遣勢力はそれを熟知した上で偽使として派遣する通交名義を選定・調整していたことが明確となった。



第二部では、階層の重層性及び性格の多様性を特徴とする零細な朝鮮通交者の中から、朝鮮に渡航して通交を行った向化倭人・受職倭人を素材とし、その活動や待遇を明らかにした。また、15世紀中期に受職が通交権化し、受職人通交者が出現した過程と受職通交権の運用実態について分析を加えた。さらに16世紀の対馬において、喪失した通交権益を補填するものとして受職通交権の獲得が試みられたこと、図書通交権が復旧した後は、島内支配を貫徹するために名義の付け替えが行われたこと、受職通交権により得られる権益は純益性が高く、実際に朝鮮に渡航する通交者からの希求度は高かった点などを指摘した。



本書により、中世日朝通交における多くの偽使名義には在地の状況が反映されていることが明らかとなった。また、日本人通交者の中に受職人通交者を位置付け、受職通交権の成立過程と運用実態を解明する成果を得た。結果として、中世日朝関係は対馬や博多の動向のみから全容を解明できるほど単純ではなく、依然として多元的な性格を内包していることを浮き彫りにできた。今後、新たに日朝関係史研究を進めていくに当たって、本書の成果はその基礎

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